童話 & オリジナルBGM

 

Nursery Tales for children
& Original Works for Solo Guitar
written by Kminami 

 

******** 読む前のウォーミングアップ ********


BGM 「追想」 


目を閉じて、現在のシガラミを忘れて、

あたなのタイムマシーンを過去に向かって起動しましょう。

すると、ひと皮づつ、むけるようにして

心は純真さを取り戻してゆきます。

やがて、あなたは幼いころの、いつかの思い出のシーンに到達するでしょう。

そして、すべてを受け入れる心で読み始めてください。

     BGM for The Nursery Tales 作曲:南 浩平 
ORIGINAL FOLIOS for Solo Guitar composed by Cohey Minami (kminami)

  (MP3 & PDF)

 

 

******** index of tales  & jump ********

 

1. トンネルをぬけると 
(1984:小学館 受賞作品 

2.キャベツ畑にうめられて
 (1984)さし絵 中本一生(いっしょう)

3. かみさまの*** 
(1986)

 

4. みさとの父ようび
(1986)

 

5. チンチン公園のスミヨソウ
(1985)

 

 

 

 

 

 

トンネルをぬけると  BGM 「いたずらモーツァルト」


*** part 1ne ***

 

コウヘイ君は 電車に乗るのが大好きです。

それも おばあちゃんのおうちに行くときに乗る 急行電車がいちばん好きです。

 

「こんど いつ おばあちゃんのところにいくの?」と よくお母さんに聞きました。

だから おばあちゃんのおうちに行く日はうれしくてたまりません。

おうちから駅までの遠い道も サッサと歩きました。

駅で お母さんのキップを買うのも コウヘイ君のたのしみのひとつでした。

 

ホームにつくと お母さんの手をグイグイひっぱって、電車のいちばん前に乗るのでした。

いくら席がすいていても お母さんが 「こっちに来て すわりなさい」と言っても 

コウヘイ君は ふりむいて ニヤリと笑いながら首を横にふり 

運転席のうしろの窓のところに立ってじっと前をみつけていました。

まるでコウヘイ君が電車の運転士のようでした。

 

やがて運転士が乗りこんできて座りました。信号はまだ赤く光っています。

コウヘイ君は心がワクワクしてきました。

おでこをガラスに押し当てて 発車のベルの鳴るのを じっと待ちます。

 

やがて ベルが鳴り プシューとドアのしまる音が聞こえました。

信号を見ると青に変わっていました。

 

ガタン! 電車が動き出すと コウヘイ君は頭をガラスにゴツンとぶつけてしまいました。

電車は線路をまたいだり ほかの線路に入ったりして 横にゆれながら ガタンガタンと ゆっくり走りだします。

そしてスピードを上げてゆくと 線路の両側のけしきが 右へ左へ どんどん飛んでゆきます。

 

二本のレールは ずっと先のほうでひとつになっているのに 

どこまで走ってもレールの幅が変わらないのがふしぎでした。

やがて 電車は家の屋根より高いところを走ってゆきます。

遠くに うっすら見えていた山が だんだんはっきり見えてきて まるで山が こちらに向かってくるようです。

 

コウヘイ君が好きなのは 電車がかたむきながらカーブを走ったり 

駅のホームを風を起こして走りぬけたり

鉄橋を大きな音をたてて渡ったりするときです。

そして いちばんワクワクしたのは 電車が あの山の長いトンネルに入るときでした。

 

線路は山のふもとに向かっていて 

その先にレールが吸いこまれてゆくようなトンネル穴が小さく見えてきます。

そして その丸いトンネルの入り口は どんどん大きくなりながら 目の前に近づいてきました。

まっ黒な その大きな穴は まるで電車をのみこんでしまうように 口をあけてせまってきます。

 

「電車が 山に食べられちゃう!」と思うほど それはこわいような 

おもしろいような ドキドキするしゅんかんです。

電車がトンネルに入ったとたん 目の前がまっ暗になって ゴー!と けたたましい音がひびきわたります。

だんだん目がなれてくると ヘッドライトにてらされたトンネルの先がぼんやり見えてきました。

 

コウヘイ君は なぜか いつも電車から見える お城のそばの 

ゴミを焼く工場の大きな高いエントツをを思いだしました。

モクモクと いつも白いけむりを空にただよわせている あの太いエントツ。

「もし あのエントツを 下から見上げたら きっとこのトンネルの中みたいだろうな。。。」と

コウヘイ君は思いました。

 

トンネルのかべのケイコウ灯が次から次ぎへと うしろに飛んでゆきます。

それは 二列になってふってくる 流れ星のようでした。

電車はあいかわらず ゴーゴーと音をひびかせてトンネルの中を走りつづけます。

 

すっとむこうに 針でつついたような 小さな穴から光がさしこんでくるトンネルの出口が見えてくると

コウヘイ君は ホッとした気分になってきました。

その出口から さしこむ光は だんだん まぶしく白く光って 

やがて おひさまを見たときのようなまぶしさになりました。

 

でも 出口に近づくうちに その光は昼間の光にしては 

すこし青っぽい光にかわってゆき それほどまぶしくなくなってくるのでした。

コウヘイ君は「なんか へんだなあ?」と思いました。

 

そして電車は ついにトンネルを出たのです。

電車がトンネルを出たとたん コウヘイ君は「アッ!」と声をあげました。

電車のあの やかましかった音が急に消えて まったくなんの音も聞こえなくなったのでした。

 

*** part 2wo ***

 

トンネルをぬけると いつもすぐ駅に着くのに 

そしてたくさんの家やビルが見えてくるはずなのに なんと あたりはマッサオ。

右も左も窓から見える外のようすは すべて青くすきとおっていました。

きょねん 海中公園で乗った 潜水艦の窓から見た海の中のようでした。

 

電車は いつのまにか 音もなく ゆれもせず まるで止まっているかのようでした。

コウヘイ君は不安になって、ハッとふりむいて お母さんをさがしました。

お母さんはイスに座って いねむりをしていました。

乗っているほかの人たちもみんな コックリコックリとねむっていました。

 

コウヘイ君は ふしぎな外のけしきのことを お母さんに知らせようと 走ってゆき

「お母さん!」と呼びかけながら お母さんのひざをゆすりました。

でも お母さんはねむったままで おきてくれません。

 

コウヘイ君は だんだんさびしい気持ちになってきました。

でもコウヘイ君は男の子です。

「いったい どうしたことなのだろう?」

自分で考えてみようと思って また電車の前から外を見ました。

さっきよりも もっと青さがまして まるで おフロの窓から見える夜空のようでした。

 

コウヘイ君は思いました。

「きっとトンネルは いつのまにかエントツになって 電車は山のてっぺんから空高く

まっすぐに飛び出したのだ!」

 

そして じっと深い海の中のようなけしきを見わたすと 

あちこちに金色に光る点が いくつもいくつも見えました。

「そうだ あれは星なんだ!」

わけがわかったコウヘイ君は なんだか急に楽しくなってきました。

「ワー!ボクの電車は宇宙を飛んでるんだ!」

「そうだ この前 学校から行ったプラネタリウムの夜空と同じだ」と

コウヘイ君はなっとくしました。

 

「たいへん長らく ご乗車おつかれさまでした。次はペテネラス。ペテネラス。

サルダーナ方面におこしの方は お乗りかえください」

と車内アナウンスが聞こえてきました。

「あれ?そんな名前の駅はきいたことがないぞ!」とコウヘイ君はつぶやきました。

 

点々と見えていた いくつもの星のひとつが かがやきながら どんどん近づいてきます。

金色の光は だんだん うすみどり色になって 窓いっぱいに見えるまで近づくと

その光はあざやかな緑色になり その丸いかがやきの中に 山や海のかたちがぼんやりと見えました。

 

電車はまっすぐ前に進んでいると思っていたのに 山のかたちが はっきり見えてくると

電車はまっさかまに落ちてゆくように見えて 

コウヘイ君はオチンチンのあたりがゾクゾクッとしてきて なんだかこわくなってきました。

それはまるで ゆうえん地のジェットコースターの乗ったときのようなこわさでした。

 

やがて 目の前に いちばん高い山が見えてきて そ

のてっぺんにまっ黒な穴があいているのが見えました。

穴の中からは モクモクと白い煙がわいています。

水の入ったコップにドライアイスを入れたときのような煙でした。

 

目の前が 煙につつまれ 真っ白になってきました。

次のしゅんかん あたりが急にまっくらになって ゴーという音が またひびきわたりました。

どうしたことか 電車のあかりがつきません。ほんとうにまっくら。

 

コウヘイ君は目をいっしょうけんめい開けましたが 何も見えません。

これでは まるで目をつむっているのと同じです。

でも 電車がガタガタゆれるので 「きっと これはトンネルの中にちがいない」と思いました。

そう思うと 少しは安心してきました。

 

ところが 変なことに気づきました。

なんだかコゲくさいにおいがしてきたのです。

お母さんが ときどき庭でゴミをやくときのにおいのようです。

コウヘイ君はドキッとしました。

 

「これはトンネルじゃなくて エントツの中にちがいない。

 きっともうすぐ ゴミのもえるまっかな炎が見えてくるんだ」と 思いました。

「これは大変だ。電車が火の中に突っこんでしまう。そしてもえてしまうんだ!」

そう思うと コウヘイ君は心ぞうがドキドキして 体が熱くなり 汗がタラタラ流れてくるくらい

こわくなってきました。

 

もう 熱くて暑くて 怖くて恐くて 体中に力が入り 

手すりをにぎりしめた手も ブルブルふるえてきました。

そして目の前が ほんとうに 炎のオレンジ色になってきたのです。

炎はメラメラとゆれ 火花が花火のように飛んできます。

もうコウヘイ君の体は汗でビッショリになりました。

 

「もうダメだ!!」

のどがカラカラになったコウヘイ君は しがみついて きつく目をとじました。

 

*** part 3hree ***

 

そのときです。 コウヘイ君は 体を強くゆすられて ハッと目を開けました。

目の前の窓の外には おおきなオレンジ色のまぶしい光が見えます。

 

「どうしたんだろう?」

コウヘイ君は わけがわからず キョトンとして その丸いオレンジ色の光を見ていました。

「アレー? あれは夕方のおひさまだ!」

 

まだわけがわからず ボケーっとしたまま あたりを見わたすと なんと いつのまにか

コウヘイ君は お母さんのひざの上に だかれてすわっていました。

むかいにすわっているおじさんが ニコニコして コウヘイ君を見つめていました。

 

そのとき 耳もとに なつかしいお母さんの声がしました。

「イヤーね。コウヘイ君。うたたねして。それにすごい汗。きっとこわい夢をみたのかな?」

 

電車はガタンと止まって おばあちゃんのおうちの駅につきました。

お母さんに手をひかれて ホームにおりたコウヘイ君は 大きく長いアクビをひとつしました。

 

 

 *** おわり *** 

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2.

 

           キャベツ畑にうめられて   BGM 「夕暮れのキャベツ畑」

 

       
       さし絵:中本一生


            *** part 1ne ***

 

 

 アクマの世界には きびしいおきてがありました。

それは 毎月 人間をひとりづつ不幸にしなければならないということです。

それができなかったアクマは さいばんでさばかれてキャベツ畑にめられてしまうのです。

 

 サンタンはアクマ小学校の一年生。

サンタンは毎日ごろごろして アクマのおきてをすっかりわすれていました。

気がつくと 今日は6月のさいごの日です。

あわてたサンタンは だれかこどもを不幸にしてやろうと

人間の小学校にでかけていきました。

 

 サンタンは一年生の メグという気の弱そうな女の子を不幸にしてやろうと決めました。

先生が言いました。

「きのう言ったとおり アキカンを持ってきましたか?

きょうは アキカンにひまわりのタネを植えましょう」

 

 そのときサンタンは もうメグのカバンからアキカンをぬすみだしていました。

おかあさんが入れてくれたはずのアキカンがありません。

メグは泣きだしました。サンタンはニヤリとわらいました。

 

 「わたし ふたつもってるの」と ともだちが メグにアキカンをひとつわけてくれました。

メグは「ありがとう」と お礼をいいました。

おかげで サンタンはメグを不幸にできなかったので がっかりしました。

 

 おひるの時間です。

おべんとうをあけたメグは またびっくりしました。

おかあさんが作ってくれたはずの おべんとうがカラッポ。

メグはまた 泣きだしました。

それを見ていたサンタンは まんぷくそうに ニヤリとわらいました。

 

 ところが メグのともだちが おべんとうを少しづつわけてくれたのです。

サンタンは なぜ みんなが そんなことをするのかわかりませんでした。

メグの涙が えがおに変わってゆくのをみて サンタンはまたガッカリしました。

 

 

 

 

 


*** part 2wo ***

 

 学校のかえり道 みんなといっしょに 池のほとりを歩いていたメグを

サンタンは力いっぱい 池につきおとしました。

サンタンもメグを不幸にしたくって必死だったのです。メグは泳げません。

「タスケテー!」とおぼればがらさけびました。

 

 

 

 

 

 

 男の子がいいました。

「みんな 服をぬげ! それでロープを作るんだ!」

そして ロープにつかまったメグを みんなは力をあわせてひっぱりました。

 

 ところが なんと いつのまにか サンタンも 

みんなといっしょににロープをひっぱっていたのです。

これをを見ていた サンタンのともだちが おどろいていいました。

「やめろ!サンタン!おまえは人間を不幸にするアクマなんだぞ!」

 

 とうとう サンタンはメグを不幸にできなかったのです。

それでもサンタンは その夜アクマのお城にゆくのが 少しもこわくありませんでした。

夜道をお城にむかって歩いてゆくサンタンを

まるで勇気づけるように お月さまは見おろしていました。

 

 やがて さいばんでサンタンはさばかれて キャベツ畑に うめられることになりました。

それでもサンタンは うれしそうにほほえみながら つぶやきました。

 

 「ボク知ってるんだ。人間のこどもはキャベツ畑から生まれるんだって。

ボク 人間のこどもに生まれかわるんだ。

あのメグちゃんたちみたいに たすけあうこどもになるんだ。」

 

 お月さまは サンタンの願いをかなえてやろうと思いました。


 
*** おわり *** 

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3.

 

  かみさまの*** BGM 「夢のもつれ」


おかっぱヨシコは  おねしょっこ

よっつになても  おねしょっこ

 

そのひは シトシトあめでした

「 あめは どうしてふるのかなあ 」

たいくつヨシコは ひとりごと

ほおづえついて ひとりごと

 

「 ねえ  おかあさん?どうして あめがふるの? 」

ヨシコは おかあさんにききました

たいくつヨシコをだきあげて

おかあさんはいいました

「 くものうえで  おひるねのかみさまが

きっと  おねしょをしたんでしょう 」

「 ふうん かみさまも おねしょをするんだね 」

 

きょうはヨシコの たんじょうび

さむいさむい ふゆでした

もうすぐヨシコも ようちえん

それでもヨシコは おねしょっこ

 

「 もう かみさまも  おねしょをしなくなったね 」

おかあさんがいいました

ヨシコはちょっと ふくれがお

ほおづえついて ふくれふがお

「 もう おねしょなんか しないから 」

ヨシコはあそびにでかけます

 

おかあさんはケーキをつくります

こんやは ヨシコのバースデイ

おそとで ヨシコはすなあそび

おすなで ケーキをつくります

 

そのとき ゆきがふりだしました

チラチラフワフワ しろいゆき

クリームみたいな ゆきでした

 

ヨシコは おそらをみあげます

そして  ヨシコはかけだしました

 

「 おかあさん! かみさまのウンコだよ! 」

 

*** おわり *** 

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4.

 

みさとの父ようび BGM 「はるかな日曜日」

 

 

*** part 1ne ***

 

みさとのお父さんは とおい町ではたらいていました。

そして土ようびの夜おそく おうちに帰ってくるのでした。

 

「お母さん あしたは父ようびやね」

土ようびのごはどき みさとはお母さんに聞きました。

「ええ?あすは日ようびやでえ」

と お母さんはいいました。

「ちがうで!あしたはお父さんが帰ってくるさかい 父ようびなんやで」

みさとは ちょっとおこったように言いました。

 

お母さんは ちょっとびっくりして そして うれしそうに言いました。

「ソヤ ソヤ あしたは父ようびやなあ」

 

日ようびの朝 目をさますと お母さんが朝ごはんのしたくをしている音が聞こえました。

そして となりのへやを見ると おふとんがモッコリふくらんでいました。

 

みさとはおふとんから出ると ソロリソロリと そのモッコリブトンに近よって

おふとんのお山に飛びのりました。

 

お山からは 汗くさい お父さんのにおいがしました。

やわrかいお山は 「ウーン」と うなりながら動きだし

みさとは お山からころげおちました。

そしてそのとき みさとは 「やっぱりきょうは 父ようびや」と思いました。

 

*** part 2wo ***

 

もう今は タバコのにおいがしても 父ようびだなんて思わなくなりましたが

みさとにとっては 日ようびは やっぱり父ようびだったんです。

そして毎週 父ようびはやってきます。

たとえ 父ようびがきても もう 飛びのるお山はありませんが

みさとは 決してさみしくはありません。

 

ちいさいころを思い出しても

父ようびだからといっても お父さんといっぱい あそんだことはなかったけれど

日ようびが 父ようびと思いこんでからは

父ようびには いつも おうちのどこかに お父さんがいるように思えました。

だから いつでもお父さんに会えるような気がします。

 

「がんばってるか?」

父ようび みさとには いつも お父さんの声が聞こえます。

「うん!」

みさとは いつも心のなかで 元気に そう答えました。

 

つらいこと うれしいこと いろんなことが いっぱいあるけれど

父ようびがくれば いつも お父さんの問いかけに

えがおで「うん」!と答えようと みさとは決めていました。

 

「ドアホ!しっかりせんかいな!」

「うん!」

これが みさとの いつもの父ようびです。

 

 

*** おわり *** 

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5.

 

チンチン公園のスミヨソウ


*** part 1ne ***

 

 

踏切を渡ると、すぐ右手に みんなが 「チンチン公園」と呼んでいる 小さな公園がありました。

 

夜明けには いつものおじさんが 大きな犬に引かれるようにして毎朝やってきます。

そして いつものように 犬はおじさんを公園の中で アッチコッチ引きずりまわします。

 

お昼過ぎには 近所のお母さんたちが ちいさな子供をつれて集まってきて

公園は急に にぎやかになります。

そのさわがしさの原因は どちらかと言うと お母さんたちの声のようです。

 

夕方になると 学校帰りのこどもたちが われ先にと かけこんできます。

それは まるで突風のようでした。

 

ワンパクたちのお気に入りは 手すりとハシゴが はげてピカピカになった 元は赤いすべり台です。

そのハシゴを登ってすべるには 鉄棒の曲がりくねった橋を おそるおそる渡らなければなりません。

そのスリルが こどもたちにとって 魅力的だったのです。

 

すべり台が やっと好きになってきた ちいさなこどもたちは 

小学生たちが はしゃぎながら 楽しんでいるのを

ただ うらやましそうに 下から ながめているしかない

あこがれのすべり台でした。

 

おかげで おおきなこどもたちにとっては

ちっちゃなこどもが すべり台の上で グズグズと発信準備に手間どっているのを

イライラしながら待つこともない 快適なすべり台でした。

 

*** part 2wo ***

 

 

 コウヘイ君たちは 今日も ランドセルを肩からはずしながら

チンチン公園に なだれこんできました。

 

コウヘイ君は一番のりだったのに 石につまづき 右足の親指をいためてしまい

しかめっつらで その辺をケンケンして 2,3回まわらなければならなかったので

すべり台につくのがベッタになってしまいました。

 

すべり台のまわりには ランドセルがいくつも ころがっています。

日暮れ近く だれかのお母さんが 遠くから その子の名前を呼ぶまでは

公園はこどもたちの声に みちあふれていました。

 

特急電車がそばを通ると すべり台の上の子は 電車に向かって手をふり 叫びました。

電車が行ってしまうと 下の男の子たちは

線路にむかって みんなでオシッコの飛ばしあいをしました。

 

それで「チンチン公園」ていうのかって?

いいえ そういうわけではありません。

 

おひさまがかたむき 公園が金色の空気につつまれる頃

いつものように イマイマしくて オソロしい お母さんのドナリ声に

いつものように 舌打ちしながら ランドセルをひろい上げた

いつものこどもが 最初にスゴスゴと帰ってゆきます。

 

そして こどもたちの名前を呼ぶ声が 次から次へと聞こえるたびに

ひとりふたりと 友達が帰ってゆきます。

 

やがて公園が 青い空気につつまれる頃

最後に残った コウヘイ君も ランドセルをぶら下げながら

おうちに帰っていきました。

 

街灯にてらされて コウヘイ君の長く細い影が 子犬のように

コウヘイ君を追っかけて ついて来ました。

 

そして公園には もう だれもいなくなりました。

まぶしいヘッドライトのあかりが公園を照らし 電車が通りすぎるたびに

踏切の警報機が 赤いランプを点めつさせながら 

「チンチン、チンチン」と鳴っているだけでした。

 

*** part 3hree ***

 

公園のすべり台や ブランコや ポプラの木が むらさき色の空気に包まれる頃

チンチン公園のかたすみでは

ある秘密のできごとが はじまるのでした。

それはだれも知らない秘密のできごとでした。

 

公園には いろんな ありふれた草花が咲いていて

タンポポ ヒマワリ コスモス ツバキ など一年中かわりばんこに咲きました。

 

でも実は 一年を通して いつもきれいに 咲いている花があったのです。

その花は どの花よりも美しいく咲いていても

ほんとに だれもその花には気づかなかったのです。

 

その花のことを知っていたのは

スズメやミツバチやチョウチョウたちだけだったのです。

なぜ 発見あそびの大好きな子供たちにも その花はみつけられなかったのでしょう。

 

そう これが その花の秘密なのです。

秘密とは この花のかたちが だれの目にも見えなかったということです。

毎朝 おじさんをひぱってくる あの大きな犬も

その花のそばで 匂いをかぐけれど 首をかしげるだけで

その花は見えなかったのです。

だから人間の目には なおさら見えるはずがありません。

 

星がまたたき お月さまが雲間から顔をのぞかせる頃

その花のもうひとつの秘密がはじまるのです。

昼間 だれの目にも見えなかった その花のかたちが

なんとふしぎなことに

星月夜に照らされたときだけ うっすらとかがやいて見えるのです。

 

その花びらは ホタルの灯よりも淡く

トンボのはねよりもうすく

それでいて 夜風にそよぐとき その花は 

ほんのり 七色にかがやくのでした。

  

その花の名は「スミヨソウ」

ものしり博士も知らない秘密の花の名前です。

でも 残念なことに 夜になると チンチン公園には 

もう だれもやってきません。

 

もし いつものこども達が 今 この花を見たなら

お気に入りのすべり台も そっちのけで

歓声をあげて この花の美しさにみとれたことでしょうね。

 

*** part 4our ***

 

おや 足音が聞こえませんでしたか?

ほらほら くらやみの公園に だれか やってきたようですよ。

いったい こんなにおそく だれなんでしょうね。

 

まさか おばけじゃないでしょうね。

いままで鳴いていた虫たちが いっせいに 鳴きやんだじゃないですか。

あれ? どうやら あの影は こどものようです。

ウロウロ キョロキョロしながら 公園の中を歩きまわっているのは。

 

あっ! あれはコウヘイ君じゃないですか!

ブツブツ なにか言いながら いったりきたり

ときには じゃがみこんだり 四つんばいになったり。

コウヘイ君は いったい 何をしているのでしょう。

 

 「あーあ!どこにおとしたんやろう?チェッ、暗うてみつからへん」

コウヘイ君はブツブツ言いながら おなじみのすべり台にのぼってよきました。

すべり台の上から何かをさがそうとしているようです。

 

コウヘイ君のなくしたものは おうちのカギだったのです。

コウヘイ君がチンチン公園から おうちに帰ると

今日は まだ お母さんが帰っていませんでした。

それで ランドセルにいつもつけているはずのカギをさがしたのですが

なくなっていたので コウヘイ君は公園にもどってきたのです。

 

「すべり台の上やったら カギは光ってみえるかも知れへん」と

思ったのですが、期待はずれでした。

 

あきらめてすべり台をすべって降りようとしたとき、

草むらのむこうで何か光ったような気がしました。

「アッ!あれか?」と叫んだとたん ズッテーン!

コウヘイ君は 足をすべらせて 頭からすべり台をすべってしまいました。

 

すべり落ちると、そのまま光るものの方へ急いではって行きました。

まるで 赤ちゃんのハイハイのようにして 光るものに たどりついたコウヘイ君は

「アレ?」と 動きを止めました。

 

カギだと思っていたのに それは小さな花だったのです。

「ナーンヤ!花か!」 コウヘイ君はがっかりして立ち上がり ため息をつきました。

 

しばらく当たりを見まわしてから 「アレッ?」と首をかしげました。

そしてふりかえると さっきの花をじっくり見ようとしゃがみこみました。

「ワー!変な花やなあ キラキラ光ってるでぇ。ホタルみたいやなあ」

なくしたカギのことも忘れてコウヘイ君は その花の美しさに見とれました。

「こんな花 見たことないわ。何ていう花なんやろう?」

 

そう これが秘密の花 スミヨソウなのです。

こうして チンチン公園のスミヨソウは ついにコウヘイ君に発見されてしまいました。

涼しい風が吹くと スミヨソウは色を変え 

流れる雲に月が見えかくれすると そのかがやきも変わりました。

それは はじめて人に見られたスミヨソウが まるで

はずかしがっているようにも見えました。

 

めずらしいものは 何でもほしがるコウヘイ君。

スミヨソウを自分だけのものにしたくなりました。

そう思うと 夢中で スミヨソウの根のまわりの土を掘って

大事そうに 両手で包みこむようにして おうちに持ってかえりました。

 

ところが おうちにつくと コウヘイ君は「アッ!シモタ!」とさけびました。

お母さんはまだ帰っておらず おうちはまっくら。

カギもかかったままで おうちに入れません。

 

しかたなく コウヘイ君は 玄関のガラス戸にもたれて

お母さんの帰ってくるのを すっと待ちました。

近くにころがっていた オモチャのバケツにスミヨソウを植えながら。

 

*** part 5ive ***

 

その夜 おそい夕食のあと かくしておいたスミヨソウのバケツを

そっと自分のへやに持ってあがり 窓際の机におきました。

窓からさしこむ星と月の光にスミヨソウは チンチン公園で咲いていたときと同じように

淡く美しく ほんのりかがやいていました。

コウヘイ君は 電灯もつけずに ねころがってそれを見ていたので

やがて そのまま 眠りこんでしまいました。

 

夢うつつに こうかんがえながら。。。

ボクはいっぱいタカラモノをもってるんや。

いっしょうけんめい作ったプラモデルのバイクや、

お父さんが弾いていたというギターや

誕生日に お母さんが買ってくれたローラースケートや、

ピカピカにみがきあげた さびた馬のてい鉄や

チェンジマンの絵の腕時計とか。。。

それに しぶとく生きている二匹のザリガニも。

でも この花は ちょっとちがうタカラモノやなあ。

ほっといたら すぐ枯れてしまいそうやから めんどう見んなアカン。

 

そのふしぎな花は コウヘイ君にとって 特別なタカラモノに思えました。

こんな気持ちははじめてでした。見ているだけで気持ちが落ちつきそうでした。

そしてこの花を守りたいと思いました。

 

コウヘイ君が 深い眠りに入ったあとも 窓辺のスミヨソウは

ほのかな光で あどけないねがおと おおらかなイビキのコウヘイ君を

見つめているようでした。

 

*** part 6ix ***

 

あくる朝 「コウヘイ!」と呼ぶ けたたましいお母さんの声に 目ざめたコウヘイ君は

目をこすり あくびをしながら起き上がりました。

ぼやけた目に 窓辺のバケツがうります。

 

そのとき とつぜん「アッー!」と コウヘイ君もけたたましいさけび声をあげました。

バケツには きのう見た 花のすがたがありません。

「オカーチャン!!」

コウヘイ君はまたさけびました。

でも お母さんはなにも知らないはず。

 

「なんやねん?」

うるさそうな お母さんの声が返ってきます。

がっかりしたコウヘイ君は しかたなく 「オハヨー!」と答えました。

 

「けったいな子やなあ ゴハン はよ食べて学校行きや」

階段をミシミシドンドンおりながら コウヘイ君は

「悪いこと してしもた」と考えていました。

「あの花は枯れてしもたんや」

 

その日 いつものように学校のかえり

チンチン公園で みんなと遊んでいても チットモ楽しくありませんでした。

きのう あの花がさいていたところにばかり目が行きます。

そして お母さんのクセのように ため息ばかりついていました。

「どうしたんや? コウヘイ」

「ウウン なんもないわ」

「おかしなやっちゃな 女にふられたんと ちゃうか?」

友達の声をあとに コウヘイ君はトボトボと帰っていきました。

 

きのうの宿題をわすれ 先生にしかられたコウヘイ君は

土だけのバケツを目の前にしながら 宿題にとりかかりました。

すると よけいに つらい気持ちになってきて エンピツを投げ出すと

ゴロンとねそべってしまいました。

 

玄関の戸がガラガラと開く音がしました。

お母さんが帰ってきたようです。

へやは もう うすぐらくなっていました。

体をおこしたコウヘイ君は そのときハッと息をのみました。

窓辺のスミヨソウが咲いているではありませんか!

 

「そうか! この花は 暗ろうならんと見えへんのや!」

コウヘイ君は おどろきとうれしさで ドタバタと階段をかけおり

コップに水をくむと また バtバタと階段をかけ上がりました。

 

「何してんねん? この子は。 火事か? コウヘイ!」

玄関で くつをぬぎながら それを見ていたお母さんは

びっくりした顔のままでした。

 

「ちゃうわ!」 コウヘイ君はどなりかえしながら

スミヨソウのところrにかけよると コップの水をやりました。

そして うれしさと 安心のため息をつきました。

 

もうコウヘイ君にとって スミヨソウは 何よりも大事なタカラモノに思えました。

心のうちで 「なんで花なんかに。。。」と思いながらも。

 

夕食のあと コウヘイ君は いつになく いっしょうけんめい宿題をやりとげました。

目の前のスミヨソウに はげまされたかのように。

 

*** part 7even ***

 

夏休みの最初のある日 コウヘイ君は 空き地から 大きな植木鉢をひろってきました。

それにスミヨソウを植えかえるためでした。

 

そして 毎日 朝と夕方にスミヨソウに水をやりました。

お母さんが「コレ なんや」とたずねても

「理科の実験の宿題や。ぜったいにさわったらアカンで」

と まじめな顔で言いました。

 

心のうちで コウヘイ君はひそかに楽しみにしていたのです。

この美しいスミヨソウが 植木鉢いっぱいに咲く日を。

 

スミヨソウとすごす ことしの夏休みは いままでとちがった夏休みでした。

毎日 きっちりとすることをして ダラダラすることはありませんでした。

それは お母さんもびっくりするくらいでした。

 

*** part 8ight ***

 

やがて夏休みが終わろうとするころ

コウヘイ君のおうちは空家になっていました。

コウヘイ君とお母さんは 突然 遠くの海辺の町に引っこして行ったそうです。

 

きっと コウヘイ君は 大事にしていたスミヨソウを持って行ったことでしょう。

ところが どうでしょう

夜のチンチン公園の あの場所には

スミヨソウが 夏のはじめのころのように

星月夜に照らされて ひっそりと咲いているではありませんか!

 

でも ちょっとつめたくなった夜風に

スミヨソウは ちいさな花びらをそよがせながら

なぜか うれしそうにも かなしそうにも 見えました。

 

そして チンチン公園は

もう 虫たちのかなでる秋の音楽で いっぱいです。

虫たちが 夜ごと歌うのは スミヨソウの歌なのでしょうね。

きっと。

 

 

*** おわり *** 

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